タシル

タシルの街は、ハロウィーンの戦いにより魔王たちに占領されてしまいました。
タシル城には、魔王・キマイラ・魔女たち・魔物たちが住み、
地下にはセとダヤンが捕らえられていました。
タシルの住人たちは、フォーンの森へと逃げて無事でした。
行く場所をなくした人間たちは、魔王の同盟軍となりました。
それぞれの思いが分かる場面を少しずつご紹介します。

ダヤン
ダヤンの作戦とは、返事もしない、反応も示さないセに向かって、アビルトークにやってくる前のタシルでの楽しかったことを、つぎからつぎへと話すことでした。
それはセのためだけでなく自分のためでもありました。
タシルは魔王に占領され、ジタンたちの行方もわからず、今悲しみで死にかけているセ。
ダヤン自身も囚われの身で、おまけに壁がふたりを隔てていますから、そばにいくことすらかないませんでした。
どうもこうも気のめいることばかりつづいているなか、ダヤンにとっても、こうして楽しかったころのなつかしい仲間たちについて話すのは救われることでした。
セのためにはじめたことですが、ダヤンはだんだんタシルの昔話に夢中になり、夕食後のひとときが楽しみなあまり、パンと水だけの貧しい食事さえ気にならないほどでした。


「ありがとう、ダヤン。お礼のキスがわりに」すっかり食べ終わったセは、細い壁の隙間から砂糖菓子をすべりこませました。ダヤンの口いっぱいに広がる甘い味。
それは作戦がみごと成功して、セが生き返った喜びと勝利の味でした。
ふりむいたセは、テーブルの上に目をやって、はっと息をのみました。
キマイラの心遣いから置かれたもの。ふたつに割れたセの肖像画。それはバードからの贈り物で、ただひとつのバードの形見でした。
魔王の閃光からセを救ったのはこの肖像画で、そのときふたつに割れました。
その後、魔王のくりだす閃光が、バードの背を貫くさまがありありとよみがえりました。
あのとき自分をかばって身を投げたバードの下に倒れていたセには見えなかったはずの光景が、あたかも天上から見おろしているかのように、鮮明に浮かびました。
ふたたび生きる気力をとりもどしたセの心にふつふつとわきあがってきたのは、魔王への強い怒りと憎しみでした。
燃えあがった怒りの炎は、悲しみの涙に浸された心を乾かしていきました。
『もう泣くまい。魔王をこの手で倒すまでは』
セは割れた肖像画を合わせると、魔王への復讐を誓い、キスをして胸にしまいました。

ジタン
「お兄ちゃんの怪我は死ぬわけじゃない。ちゃんと養生すれば治るものなの。そんな薬はいらない!決闘なんかしちゃいけない」バニラは泣きだしました。
「飲ませてくれ」ジタンの目が輝きました。小びんのほうへと自然に手が伸びました。
傷が自然に治るのなど待ってはいられません。早くタシルに行かなくてはならないのです。
その前に決闘しなければならないわけですが、決闘で自分が勝てば、シノアを含めたエルフたちの全面協力をとりつけられることになります。負ければタシル軍のみが戦いに赴くわけですが、どちらにしても、早くダヤンたちを助けにいけるということでした。
自分の怪我が治るのをのんびり待っているくらいなら、決闘で死んだほうがましなくらいでした。『いやいや、絶対に死ぬわけにはいかないんだ』あわててジタンは自分の中の考えを打ち消しました。
ダヤンを助けるという使命が残っているうちは死ぬわけにはいきませんし、死ぬつもりもありませんでした。

人間たち
テイラーにはこの国で冬を越える気はもうとうありませんでした。
小屋を四棟建てるという名目で材料を街から運びこんではいましたが、その材料も微妙に変えて、船の修理や改造にまわしていました。
食料や油も航海に必要なものはどしどし運びだし、いったん小屋に入れてから、川沿いの隠れ道を下って船にこっそり運びました。
魔物が大ざっぱで食料以外はほとんど気にしていないことがわかってから、テイラーは大胆になりました。
城を差配しているのはキマイラと呼ばれるひとつ目の小さな化け物のようでしたが、幸いなことに、キマイラは魔王の言った大事な行事とやらで忙しいようでほとんど街にはおりてきません。魔王もそうでした。
フォーンの森の森番となると魔王には言いましたが、ジタンをうち落した確信のあるテイラーは、タシルの動物たちが攻めてくるとしてもずっと先のことだと思っていました。
あの猫が助かったとしてもひどい怪我をしているのは確かですし、あの猫ぬきでタシルの動物たちが自分たちの国をとりかえしにくるとは思えませんでした。心配なのは、船が見つかりはしないかということと、街に材料や食料を集めにいく兵士たちと魔物との衝突でした。

魔王
魔物も魔女も、魔王が何を言いだすか耳をそばだてました。縛られた魔女たちに満足した魔王は両手を広げ、地下にいるセに届けとばかりの大声で宣言しました。
「みなのもの!喜ぶがいい。地下の魔女もよく聞いておけ。結婚式のメインディッシュは魔女鍋だ!」
一瞬静まりかえったあと調理場は、魔女のあげる恐ろしいほどの悲鳴と怒号でわきかえりました。その魔女たちに向かい、あかんべえをするように黄色い目の下に這うみみずのような傷を見せながら魔王は言いました。
「きさまらの大切な大魔女に礼を言うがいい。神聖な式の糧となることに感謝の祈りでもささげるのだな。魔女のしでかしたことは、魔女があがなわねばならぬ。さても結婚式でのセの顔が見ものじゃて」
カラカラと笑いながら魔王は出ていきました。

 

*ちょこっと秘話! by 池田先生
最後にジタンが武器を捨てて王国を街にするって所ははじめは構想に入ってなかったけど、急に浮かんだの。
そういうことってあるの。向こうから話がやってくるってこと。
あとね、ダヤンがはじめてわちふぃーるどへやってきて、森番の小屋に住むじゃない。
森番の小屋はニンゲンが建てたってことをどこかで出したかった。
これでつじつまがあった気がする。

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