魔法

「呪文のパン」

リーマちゃんはおばあちゃんを驚かせようと、シーッ、ブーフに指を立てて見せ、そっと台所に入っていきました。
ワン!さっぱり分かっていないブーフが吠え、おばあちゃんは文字どおり飛び上がりました。
「リーマ!まあ、おどろいた!」
あんまりおばあちゃんがびっくりするので、かえってリーマちゃんはめんくらってしまいました。
おまけに、おばあちゃんは、あたふたとエプロンをはずしたり、まるで隠すものがあるかのように
リーマちゃんとオーブンの間をうろうろしはじめました。
「おばあちゃん、パン焼いてたんでしょ?隠しても分かるよ。いい匂いがするもん」
たいへんな年寄りなのにもかかわらず、おばあちゃんのほっぺたはもともとピンク色なのですが、
みるみる赤くなり、とうとう真っ赤になりました。
「ち、ちがうのよ、リーマ。これはね、ふつうのパンじゃないの」
おばあちゃんは何を隠しているんだろう?リーマちゃんは不思議に思いました。
そのうちパンはすっかり焼けたようで、あたりには香ばしいを通りこしてこげくさい匂いが漂ってきました。
「おばあちゃん、パン出さないと」
リーマちゃんは、めずらしくうろたえているおばあちゃんの横をすりぬけ、オーブンの蓋をあけて、
長い柄のついた木のへらで手際よくパンを取りだしました。
おばあちゃんの家のオーブンはおばあちゃんと同じく古いものでしたが、しょっちゅうおばあちゃんの家に来て、
料理を手伝ったりしているリーマちゃんにとっては慣れたものでした。
「わあ、面白い形のパンだね」
こんがりきつね色に焼きあがったパンは、だった四つしかありませんでしたが、それぞれが実に不思議な
文字のような形をしていました。
「それはね、呪文のパンなのよ」おばあちゃんはそう言うと今度はクスクス笑いだしました。
「ねえ、リーマ。おまえからはなにひとつ隠してはおけないのね」

「時の魔法」

時をさかのぼる旅の準備がはじまりました。
「ぜひカシガリ山へのお越しを」
三人の魔女の長女タイムは、妹たちとともにセの前に進み出、カチンカチンにかしこまって言いました。
「あなたさまの家でもあるわけですから」
「そうだね。そうしようか」おばあちゃんはうれしそうに言って、それからはカシガリ山の魔女の家が
司令塔のような形になりました。
「タシルからはちょっと遠いけど、ここならすべてそろっているからね」
「さて、タイム」カシガリ山の大広間でくつろぎながら、おばあちゃんはタイムにむかって言いました。
「まずはおまえと同じような名前の時の精霊、タイムたちの居場所をつきとめなくてはならない。
 そこが時間の旅の出発点になるからね。おまえならどうやってつきとめる?」
「タイムたちは時計に住んでいるもの。時計からタイムを追いだし、その後をつけていったらいかがでしょう?」
「それなら、ジンジャー。どうやって追いだすね?」
二番目の魔女に聞きました。
「今日と明日の境い目、その隙間から追いだすのがよろしいかと」
「ではピクルスや。タイムたちについていくにはどうしたらいい?」
三番目の魔女に聞きました。
ピクルスは目をぐるぐるまわして考えました。
「タイムたちの居場所は時の宇宙だと聞きます。はて・・・・・ダヤンだちは飛べないし・・・・・といって
 あたしらのほうきを貸すわけにもいかないし・・・・・なにか飛ぶためのものを作れませんかね?」
答えを聞いておばあちゃんは満足そうにうなずきました。
タシルの街で評判はよくないけど、どうしてどうして、三人ともちゃんとした魔女に育っているではありませんか。


「さあ、時の魔法の準備が整った」魔女の帽子をかぶり、黒いガウンを身にまとって正装したセが言いました。
「もうじき今日と明日の境い目だ。みんなは悪いがじゃまにならないよう隅に寄っていておくれ。
 ジタン、ダヤン、ここへおいで」
セはジタンに翼の紋章で封をした封筒を手わたしました。
「タイムの居場所をつきとめたなら、入港管理のハップルというニムルにこれをおわたし。
 どうすればいいか教えてくれるから」
いよいよ時の魔法がはじまります。セの指示にしたがって、みな決められた位置につきました。
セを中心に扇形にめずらしくまじめな顔をした三人の魔女がならび、少し下がってセの両脇に
ダヤンとジタンが背中に翼をつけてひざをついていました。
海ヒョウの毛皮を着て、長い翼をつけているふたりは猫というより羽を広げたふくろうのようでした。
そして、それをとりかこむように、時計がぐるりと円を描いてならべられていました。
壁際にしりぞいたタシルとアルスの友人たちは心の中で最後のさようならを言いながら、
息をつめて魔法のなりゆきを見守っていました。

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