トリポカの戦い

火のトリポカ
まだ戦が激しくなる前まで、アルトス・セテのはずれに住んでいたアリクイはトリポカの伝説を伝え聞いていました。
そしてその後、西の人間が持ちこんだ道具と巨人の落とした大岩で神殿が壊され、トリポカが四散したとのうわさもアリクイは知っていました。
けれども地の果てとも思われるほど、遠い国までさ迷い歩き、おなかをへらしたアリクイがクロウタドリの巣をさぐって玉をみつけた時も、まさか赤い玉がアルトス・セテの宝であったトリポカの玉だとは思いもしませんでした。きれいな玉だから、売ればなにがしか口をしめらせる物を買うことができるだろうと思って、失敬しただけの話でした。
アリクイはいっしょに盗んだクロウタドリのひなを焼いて食べようと、いつものように棒切れをすりあわせ、火を起こそうとしました。すると突然、火の種が生まれる間もなく、横に置いてあった玉が火を吹いて燃えあがったのです。アリクイは飛びあがって驚きました。けれど高く色を変えて、火を吹きあげていく玉を見ているうち、アリクイの心に、もしや・・・・・と胸を弾ませる期待が膨れあがってきました。
「もし、これが火のトリポカなら」アリクイは思いました。「おれはすばらしく強力な力を手に入れたことになる。こいつは運がむいてきたぞ」アリクイはわくわくと揉み手をしました。「この玉を売ったら大金持ちになれることまちがいなしだ。さて、誰に話をもちかけようか?焼け野原のアルトス・セテは問題外と・・・・・タイルの王か?はたまたサウスに行くか?はて、いったいいくらで売れるのかしら?まず100万ルビーはくだるまい、いや、はじめは500万で持ちかけるべき・・・・・」根っから商売人のアリクイには自分でトリポカを操ろうなど思いもよりません。もっぱら楽しい商売の胸算用にふけるのでした。
そう、もしも火をたいたのが死の森のはずれでなかったなら、アリクイは自分の胸算用どおりにことを運ぶことができたかもしれません。だけど運はアリクイにむいていませんでした。
「まずこのおかしな森をぬけださなくっちゃ・・・・・」声にだして言ったアリクイの長く突きだした鼻に、どこからともなく飛んできた、先っちょに錘のついたひもが絡みつき、つづく言葉を口のなかに閉じこめました。それからでっぷり太ったふさふさの胴に、首ともいえない首に、何本となく飛んでくるひもはつぎつぎに絡みつき、アリクイは見るまにぐるぐる巻きに縛られていました。
「おあいにくだったな。あめえはでられねえよ」木の上から飛びおりた毛むくじゃらの魔物は、隙間だらけの口をねばねばと開けて言いました。
魔物は、死の森を這いまわり、魔王のための獲物をさがしていた魔王の手下でした。「替わりにいいところへ行こうや」火を吹く玉とうまそうな獲物を手に入れた魔物は、褒美への期待に胸をおどらせながら、アリクイを引き立てて城へむかいました。鼻先を縛られたまま引かれていくアリクイは、取引をもちかけることさえできません。
火を起こしてからの一部始終を見ていた手下の報告で、アリクイは拷問にかけられました。自分の命の火が燃えつきる寸前までアリクイは火のトリポカの貴重さとそれがいかにお買い得かをわめきたて、最後に「たった1ルビー!もうこれが限界・・・・・」という言葉を残して、アリクイの苦痛も命も消えていきました。
結局、魔王は火のトリポカを手に入れたものの、情報について手に入れたのは噂と伝説でしかありませんでした。

水のトリポカ
風の王はアルトス・セテについて語りはじめました。
「わしらエルフは、すすんで戦いを好まない。むろん戦わねばならないときには勇んで戦うが、侵略者ではない。
アルトス・セテが西に住む人間たちとの戦いをはじめたときも加わらなかった。風にようすは探らせていたが。
昔、アルトス・セテには力があった。なんでも火、水、土、石を治める魔法の武器を持っていたという。
しかもアルトス王は神々との親交も深くて、アビルの高地で神々と巨人の戦いがはじまってからは神の側につき、支援の貢物を送ったりしていたらしい。神々の戦いが人間どもにも飛び火して、西の人間がアルトス・セテに攻めこんだときにも、攻めてきた西の人間どもを撃退したばかりでなく海を渡り、逆に西に攻めこまんとしていた。じゃが、航海のとちゅうアルトスの妻であるセテが死んだ。アルトスは嘆き悲しみ、アルトス・セテの都に帰った。
西の人間は北の巨人と組んでふたたび攻めてきた。巨人は都を破壊した。部下たちは果敢に戦ったもののアルトスはセテの死で腑抜けになり、戦おうとしなかったのじゃ。そして激烈な戦闘の後、残った者のあいだに西の人間がもちこんだ疫病が蔓延していった。あんなに栄華を誇ったアルトス・セテは滅亡したというわけじゃ」
そこまで話した時、いきなり泣きだしたものがいました。うしろのほうで聞いていたいぼだらけのイグアナでした。
風の王はイグアナを手招きしました。
「わずかに残る疫病の菌も風たちが吹きとばしたあと、わしは都へ入った。そして神殿の奥にこの者だけ生き残っているのを見つけたのじゃ」
「そうです」イグアナは話しはじめました。「私はトリポカの番人、イグアナと申します。トリポカは先ほど王が話されたようにアルトス・セテの宝で、私の家は代々その番人を勤めていました。けれどあの混乱のなか、攻め入った敵、人間もいたし、どさくさにまぎれて入りこんだ泥棒もたくさんいました。私はトリポカを守ろうとしたけれど、やはり疫病にやられ、倒れてしまいました。ほら、私をご覧下さい。おかげで体はこんなふうにいぼだらけで醜い姿になってしまいました。トリポカは4つありましたが、3つは盗まれたとみえて、たったひとつ残ったトリポカは、気がついた時には私の体の下にありました。疫病を恐れ、誰も触ろうとしなかったのでしょう」
イグアナは大事そうに風呂敷に包んだトリポカをとりだしました。
「これは水のトリポカで、水を操ることができます。でもいちばん大切な火のトリポカを私は失ってしまいました。はじめ私は死のうとしましたが、このままでは死の世界でご先祖や王さまにもお妃さまにも顔を合わすことができません。そこで私は火のトリポカを何年かかってもさがすつもり・・・・・」
イグアナが話し終わらないうちに、あんぐり口を開けてイグアナの話を聞いていたダヤンが叫びました。
「ボーン!どうも聞いた声だと思ったんだ。きみはトリポカの番人、ボーンだ!姿はちがうけど、でももともとボーンはなにかだったんだし、千年トリポカを守ってるって言ってた」
話の腰を折られてイグアナは不満そうにダヤンを見ました。
「私はボーンじゃありません。イグアナとちゃんとした名前もあるのに」

決戦
「アッガーッガド!ギドリング!デーモントロップ!」呪文を叫びました。
とたん、火桶は火を吹きはじめ、轟々と燃えあがりました。そして炎は生き物のように踊りながら空へ昇ると、空中でちろちろわかれていき、ついには7つの踊る火となっていきました。7つの踊る火は空でしばらく身をくねらせ、炎の両手をあげて踊るような仕草をしました。
そして驚くみなが見あげるなか、一転すると、風をのぞいたこちら側のひとりひとりをねらって空からくねくねと突進してくるのでした。もちろん風は黙ってはいません。
王たち形在る者に覆いかぶさるようにしてかばいながら、昨夜と同じように敵方に火を押しやろうと顔をあげ、頬を膨らませて、思い切り火にむかって息を吹きつけました。
「よせ!吹き返すのはやめろ!」風の王は叫びましたが、まにあいませんでした。王の静止より早く、風は吹き返していました。
風に吹きつけられた火は、ストーブの火をふいごで起こすような効果を生みました。風をはらんだ火はみるみるふくれあがり、踊り子のようだった踊る火は、7人の火の巨人となりました。魔王はくわっと目を見開き、その目は邪悪な喜びに輝きながらも、口のなかで呪文を唱えつづけました。さあ、魔物どもは大喜び。手を打ち鳴らし、足を踏み鳴らして叫びたてました。「ホウホウ!」「やったぞ!」「自業自得よ!」「きさまらの育てた火に食われちまえ!」
王、ジタン、ダヤン、シン、ダンス、ボーン、そしてセに抱かれたバニラ。火の巨人は宙に揺れながら、形在る者を見定めました。空からの攻撃に風の幕は役に立ちません。火の巨人はひとりずつにねらいを定めました。
「吹き返すな!守れ!」四方の風とその配下はすばやく7つに分かれ、ねらわれる者を押し包んで渦巻く風でくるみました。セとバニラは南風のアナンに包まれました。
「だいじょうぶ?怖くない?」セに聞かれて、バニラは首をふりました。
「ぜんぜん。あったかいよ。お風呂に入ってるみたい」
その答えに南風は笑い、ふたりを包んでいる透明な膜のようなものはフルフル揺れました。吹き返さないかぎり、守られる側は安全でしたが、風が火を太らせてしまうのでうかつに攻撃はできません。
「ボーン!水のトリポカを出せ!」
「水のトリポカは私が持っています!」風の王の声に大きくジタンが答えました。
「ボレアス!」ジタンは北風を呼びました。「援護してくれ!」ボレアスと配下の渦巻く風はジタンを囲みました。ジタンにねらいをつけた火の巨人は、入りこむ隙間が少しでもないかと、赤い目をキロキロさせて探っています。風に守られながらジタンはトリポカを掲げ、ともすれば吹きとばされそうななか呪文を唱えました。
「バダー!ハロードナヤ、バダー!」
シューッ!トリポカから水がまっすぐに吹きあがりました。ジタンに跳びかかろうとねらっていた火の巨人はひるんで空中を飛びすさりました。

 

*ちょこっと秘話! by 池田先生
あとはボーンね。「トリポカの謎」っていう漫画絵本は「モエ」の連載で、
結構話の展開はむちゃだったけど、後々いろんなもののヒントになってくれた。
ダヤンの性格がかなりはっきりしたのもこれ以降だし。
ボーンも好きなやつなので、ここで出しちゃえと。
昔「イグアナダンス」という皮人形を作って、気に入ってたので、ボーンはイグアナにしました。
骨になってよみがえったボーンは念願の「イグアナダンス」を踊るの。

トップページ月の展覧室アニメーション宝さがしQ&A不思議な国の美術館の地図

(C) Copyright 2006.Wachifield Licensing.Inc.All rights.