結婚

金色のキラキラ輝く髪に海の底のような青い瞳で、花のように笑う美しい"セ"に
敵であるはずのニンゲン”バード”と死の森の魔王が結婚のプロポーズをしました。

 

バード(ニンゲン)
「ねえ、セ。結婚してくれるね」
「結婚?」結婚!結婚、けっこん・・・・・
はちきれそうにふくらんだセの胸の中で、バードの言葉は閉じこめられたミツバチのように飛びまわり、甘い香りを放ちました。
「そうだ。いっそ今からいっしょに行って、王さまやタシルのみんなにも発表しようよ。きっとダヤンは喜んでくれるぞ」
「だめよ!ぜったいだめ!」我にかえったセは強く首をふりました。
胸のミツバチはぽとりと落ちて死にました。
「聞いて。私たちのことはだれにも知られてはならないわ」
「セ、セったら。いったいどうしたのさ?」笑っているバードに答える余裕もありませんでしたが、トロル川のせせらぎが聞こえてくると、やっと安心してセは言いました。
ここならだれにも見られることはありません。
「お願いよ、バード。今日一日。一日だけ」
「そうだね。もう、とうに仕事ははじまっている。それなら今日だけ」
「そう。今日だけはなにもかも忘れて過ごしましょう」セにとってバードと過ごす最後の一日になるでしょう。
「ねえ、もう一度私に魔法をかけて。一日だけでいい。幸せになる魔法を」バードにとってはお安い御用でした。

死の森の魔王
魔王も威風堂々としたようすで、錦糸の織りこみのある黒いマントをはおり、これまたみっともない体を盛装で包んだ魔物3匹をしたがえて悠々と登場しました。
魔王とセは設えられた宴席に案内され、13名の正式出席者が蹄鉄型のテーブルに着きました。
魔王は祭礼の開始を告げるげく立ち上がりました。空の魔女たちも円を描きながらおりてきて、宴席を囲むように丸くひざまずき、魔王の言葉を待ちました。

 アビル高地の神より古く おしゃべりな月に届くほど長く
 わしら魔族は栄えてきた 生きる魔のもの 死ぬる魔のものことごとく
 今宵はこの場に集い 食らい 舞わんとしよう
 地の底からたちのぼる魔の気配は腐臭をともない 暗黒の空へとのぼらん
 そして魔と魔は結ばれ この世界を魔で覆いつくそう
 記念すべき今宵 百年に一度の大祭
 わしはこの夜 魔族をいや栄えさせるため
 夜を欺く美しさをもつ 魔の人に結婚を申しこむことにした
 さあ、魔の人よ 立ちあがってくれ そして結ばれようと言ってくれ
 魔のものどもよ はやすのだ
 魔族のいや栄えを願い 夜が割れるほどにはやすのだ!

両手を高々と掲げた魔王の言葉に、どっと魔の者たちはわきかえりました。
なんと派手は結婚の申しこみでしょう。
「イヤサカエ!イヤサカエ!」はやしたてる声は、耳をふさぎたくなるほどのやかましさで、魔女たちははやしたてながらこぞってセの手をとり、立たせようとしました。

*ちょこっと秘話! by 池田先生
もうひとつ、この巻で初めて恋が出てきます。
これも書くのが面白かったわ!


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