タシル


「わしは老いた」金黒まだらに白いもののまじるあごひげをしごきながらグランはひとりごちましたが、
不思議と悲しみはありません。
それは正しい流れであり、仕事を託すことができる息子を持ったことを誇らしく思うのでした。
むしろ晴ればれとした気分で、グランはジタンに言いました。
「ジタン、若いころのわしは大猫グランなどと呼ばれ、いい気になっていたものだ」
「大猫グランの息子であることは私の誇りです」

「ぼくはタシルのみんなのひとりひとりが自然に戦う術を身につけていって、イザというとき一体となって動けるようになればいいと思ってるんだ」
「あのさ」ダヤンが自信なさげに言いました。
「ちょっと考えたんだけど、ほら、お祭りのときみたいな感じでやるっていうのはどうなんだろう?」
「お祭りだって?」
「うん、例えばメイフェアでさ、木をひきあげるときにね、組にわけてさ、競争でやって、あれはおもしろかったよ」
なるほど、お祭りと街の防衛は、組んで力を合わせなければならない、ということで共通しています。
「そうか、昔からタシルのお祭りにはブラド(組)っていう制度があったな」ジタンは長くつづくと思われる戦いへのそなえが、市民である動物たちを緊張状態へ追いやったり、自由を束縛したりするのを極力さけたいと思っていました。
自然に兵士を育て、統率していくにはお祭りのブラドはぴったりかもしれません。
「よし、もう一度ブラドを組みなおそう。ありがとう、ダヤン」ジタンがそう言ったので、ダヤンはうれしくて、栗をふたつ、いちどきに口に放りこみました。

ブラド(組)編成

ソールブラド (かかとの兵士)
隊長は、猫のホッフとうさぎのストーミー。
すばしっこくて、力か気の強い者たちが選ばれ、「脛打ち丸」が王自らにより手渡されました。
ダヤンもソールブラドになることができました。
ソールブラドの者たちは、「脛打ち丸」を自在に操れるように練習に励んだり、「不意打ち球」や「すっころばし縄」など、組んで戦う訓練もおこないました。

テールブラド (しっぽの兵士)
あまりすばしっこくもなく、気も強くない動物は「迷宮のタシル」づくりに加わるとともに、敵が入りこんだときには、ソールブラドが誘導してきた罠で「待ち伏せ」任務につくことになります。
テールブラドでは、「消える階段」、「でんぐり返る石畳」など、どんどん新しい仕掛けを考え出しました。
とくに黒猫のマントとビーバーのタックが優れた能力を発揮していました。

ツールブラド (手の兵士)
ジタンの考える独特の武器などをつくる鍛冶職や木の職人が受け持ちました。
また、古い鎧を繕ったり、鎖入りのチョッキを編んだりする者も、ツールブラドの印をもらいました。
ツールブラドでは、「鉄の爪」や「げんこつの矢」などの改良をくりかえしていました。

ボーノブラド (舌の兵士)
隊長は月のおばさんの祖先のアダ。
できるだけ長持ちするおいしい保存食を作り、城や街のところどころに保管していく役割を受け持ちました。

スカイブラド (つばさの兵士)
タシルにおいて鳥や水鳥たちは準市民といった形でした。移り住む種なので、税金や台帳への登録はしていませんが、グランは鳥やたまごに対してずっと保護政策をとってきました。
今回のブラド編成に際して、ジタンは鳥をスカイブラドとしてつばさの兵士に任命しました。

 

*ちょこっと秘話! by 池田先生
これを書く前、ドイツに行った時に見た中世の街や城砦都市は 罠作りの参考になった。
階段がおかしな所についていたり、先細りの アーチがあったりと・・
罠と『脛打ち丸』という小さい動物に適した武器。
そして大勢の鳥に襲われる恐怖。
できるだけ残酷な場面は避けたつもりだけれど、海辺の戦いなどに対する批判も多かった。
でもそれは仕方ないこと。
戦いを書かなければ、平和の重みもないから。

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